延焼線の告示緩和を紐解く
2019年の延焼ラインの法改正で、建物が隣地境界線や隣棟間の中心線に正対していない場合には、その傾き度合いに応じて延焼範囲を計算によって設定できるようになりました。また、これまで無制限にかかっていた高さ方向の延焼範囲も、計算で求めた高さに抑えられるようになりました。つまり、火災の際の熱的な影響を勘案して延焼線の設定を合理的に算出できるようになったわけです。
実際にこの緩和計算を使ってシミュレーションしてみると、平面的な緩和効果はさほど大きくないものの、高さ方向の緩和については、建物が高層になればなるほど効果が大きくなることが分かります。告示の算定式をよくみると分かりますが、高さが低い側の建物高さに対して、概ね10m程度(*1)を上乗せした高さで延焼範囲がカットされます。低い側の建物が平屋建てであれば、4~5階以上で緩和の効果が得られます。
*1:固定値の5m(低い建物が5m以上の場合は10m)に離隔距離によって変動する5m前後を足した値。

「JG_延焼線緩和」は、隣棟間の延焼線を自動作成するJG_建物延焼線に、法改正による告示緩和機能を追加したもので、緩和後の延焼線や確認申請に使用する算定式を自動的に作成します。バージョン2.0からは高さ方向の緩和計算も自動化されました。
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今回の緩和は、大きく告示1号と告示2号に分かれます。
告示1号は、敷地内の建築物相互の外壁間に生じる延焼ラインの緩和。告示2号は、隣地境界線、道路中心線に生じる延焼ラインの緩和です。


水平方向の緩和の算定式は、
1 階(d):max{2.5,3*(1ー0.000068*Θ ²)}・・・式1
2階以上(d):max{ 4 ,3*(1ー0.000068*Θ ²)}・・・式2
で表わされ、告示1も告示2も同様です。max(値1,値2,・・・)の数式の意味は、( )内で最大となる値を採用するという意味です。つまり、1階は2.5m、2階以上は4mが基準値でその値を下回ることはありません。
告示1号で、二つの建物が共に準耐火構造以上であれば、両方の建物に緩和を適用できます。告示の解説書などを見るとどちらかの建物を緩和対象の建物にし、どちらかを「他の建築物」として説明していますが、同時に一つの算定図で表現することも可能です。ただし、形状が複雑になると算定図が増え煩雑になるので、確認申請の際は別々に算定したほうが無難です。

A図は、片側の建物形状に凹凸がある場合です。若干の凹凸でも外壁間中心線の折れ点は倍近くになり中心線の線分の数も増えます。この程度の建物形状であっても算定図が見づらくなってしまうため、建物ごとに作成したほうが見やすい算定図になります。因みに本ツールでは、緩和算定は片側ずつ行えますが、延焼線は両方が描かれるため、A図は「他の建築物」の延焼線を消去して表示しています。また念のために言いますと、高さ方向の緩和算定は高い側の建物のみが適用になります。

本ツールの算定図について少し説明します。隣地境界線等(外壁間中心線を含む)と建物外壁ラインとの交点は複数発生する場合が多いと思いますが、式1の角度Θは、隣地境界線等と建物外壁ラインのなす角度のうち最小のものが適用されます。B図の場合は27.5°(27.5°<62.5°)が最小となり、この最小角度の近傍に計算式を2段(上が1階、下が2階以上)で記載しています。もうひとつの中心線の場合も同様に最小となる17.5°(17.5°<72.5°)の近傍に2段で算定式を記載しています。
また、高さ方向の緩和を行う場合、算定式は、
h(B)が5m未満(h):h(B)+ 5+5√{1-(S/dfloor)² }・・・式3
h(B)が5m以上(h):h(B)+10+5√{1-(S/dfloor)² }・・・式4
で表わされ、水平方向の算定式の下に表示されます。ただし記載されるのは高さ緩和を行う建物のみです。ここでh(B)は低い側の建物高さを指し、Sは各中心線から建物までの最小距離(B図の場合は(S3)(S2)の4.371)、dfloorは式2で求めた2階以上の延焼距離(B図の場合は(d3)の4.743、(d2)の4.896)を指します。
さて冒頭で、高さ方向の緩和に比べて水平方向の緩和が少ないと述べましたが、このことについて少し掘り下げたいと思います。式1の算定式:max{2.5,3*(1ー0.000068*Θ ²)}は、下限値の”2.5” と ”3*(1ー0.000068*Θ ²)” の計算結果のどちらか大きい値を採用しますので、角度がいくつになると下限値の”2.5” が採用になるか調べるために、3*(1ー0.000068*Θ ²)=2.5の式をΘに対して解いてみます。結果は、Θ=49.5°です。しかし、角度が49.5°になることが果たしてあるでしょうか?

角度Θは前述した通り、隣地境界線等と建物の外壁のなす角度の最小のものです。しかし、平面形が長方形の建物を計画している限り最大の角度が45°を超えることはありません(C図)。45°を算定式に代入すると2.589です。言い換えると、建物が一般的な矩形の場合、緩和値は下限値の2.5までは下がらず2.6程度で頭打ちになります。ちょっと残念な結果ですね。
また高さ方向の緩和で気をつけることがあります。B図を見るとわかりますが、高さ方向の緩和計算式にh2とh3の2種類があり、値も10.441(m)と10.753(m)と2つの値があります。入力値が異なるので当然ですが、実は高さ方向の緩和値は中心線の線分(折れ線)の数だけ存在します。
冒頭で高さ方向の緩和による効果を表現した図を掲載しましたが、正確に表すと次のD図のようになります。

延焼範囲の上端の位置に着目すると、範囲がずれていることが分かります。
実務に応用する場合、立面図に延焼範囲を投影して表現することになろうかと思いますが、A図のように中心線の線分数が多くなると作業がとても煩雑になります。その場合は、最大となる(h)の値で安全側で統一するというのも一つの方策かと思います。
操作方法は、以下の通りです。
【1】zipファイルを解凍し、JWWファイル内または任意の場所に保管します。
【2】Jw_cadの[その他]メニュから外部変形コマンドを選択します。
【3】ファイル選択で、保管した場所にある「JG_延焼線緩和」フォルダ内の延焼線緩和.BAT をクリックします。
【4】Jw_cadの左上に表示されるメニューから、「建物間延焼」「隣地等延焼」のどちらかを選択します。
≪ A 建物間延焼 ≫

【5】2棟の建物の外壁ラインを全て選択し、「選択確定」ボタンを押します。
補足:建物の全データを選択しても構いませんが、属性選択から壁芯のみの選択にすると、次のフォームでの入力が容易になります。

【6】「2棟の建物を入力」フォームが立ち上がるので、建物1の外壁ラインの端部を時計回りで順にクリックし、全ての端部の入力が終了した際は「入力」ボタンを押します。直前のデータを再現したい場合は、「直前を再現」ボタンを押します。
【7】同様に建物2を入力する。

注意:図形は自動で閉じるので、最初の点を最後にクリックする必要はありません。ただし4点以上クリックしないとエラーとなります(三角形は入力できません)。明らかに正対しない面については省略して構いません。

【8】描画設定入力フォームが立ち上がるので、各注釈の記載設定として、「補助線を記載」、「中心線角度を記載」、「離隔距離を記載」、「緩和計算式を記載」にチェックを入れます。その他、出隅部の形状設定(出隅部を円弧にするか)、描画するレイヤグループの設定、線種及び文字種の記載仕様、告示緩和適用建物の選択(両方も可能)、「形状が複雑な場合に使用するパラメーター」の選択(通常はチェックを入れない)を行い、「完了」ボタンを押します。
~ワンポイント~
形状が複雑な場合は、中心線の位置を適切に描画できない場合があります。その場合、建物1と2の割り当てを入れ替えると改善する場合があります。同様に、「形状が複雑な場合に使用するパラメーター」の項目にチェックを入れると描画できる場合があります。
補足:「補助線を記載」と「中心線角度を記載」及び「離隔距離を記載」にチェックを入れなかった場合でも、告示緩和適用建物の選択し「緩和計算式を記載」にチェックを行った場合には、緩和計算に必要な補助線と中心線角度が記載されます。
【9】告示緩和適用建物の選択で両方の建物を選択した場合、高さ方向の緩和フォームが立ち上がるので、高さ方向の緩和を行う建物を選択します。高さ緩和を行わない場合は「高さの緩和を行わない」にチェックを入れる。設定後OKボタンを押します。

【8】で告示緩和適用建物の選択を行わなかった場合は、Jw_cadの画面に延焼線が出力されます。
【10】【9】で高さ方向の緩和を行う建物を選択した場合、又は【8】の告示緩和適用建物の選択で片方の建物を選択した場合は、他の建物高さ設定フォームが立ち上がるので、他の建物高さを入力します。高さ緩和を行わない場合は、「高さの緩和を行わない」にチェックを入れます。設定後OKボタンを押すと、Jw_cadの画面に延焼線が出力されます。
参考:【8】で注釈の記載設定で「緩和計算式の記載」にチェックを入れた場合は、中心線と外壁面がなす角度のうち最小となる位置に計算式が記載されます。また、高さ方向の緩和計算に使用する最小距離(S)も自動的に描画されます。
≪ B 隣地等延焼 ≫
【5】1棟の建物の外壁ラインと隣地境界線等を全て選択し、「選択確定」ボタンを押します。
【6】「1棟の建物と隣地境界線を入力」フォームが立ち上がるので、最初に、建物1の外壁ラインの端部を時計回りで順にクリックし、全ての端部の入力が終了した際は「入力」ボタンを押します。直前のデータを再現したい場合は、「直前を再現」ボタンを押します。
注意:図形は自動で閉じるので、最初の点を最後にクリックする必要はありません。ただし4点以上クリックしないとエラーとなります(三角形は入力できません)。建物の裏側もできる限り入力して下さい。
【7】同様に、隣地境界線を時計回りでクリックし、全ての端部の入力が終了した際は「入力」ボタンを押します。
注意:境界線の場合は、最初の点と最後の点を重ねることができます。また、二点以上で入力できます(一つの線分から入力できます)。
【8】描画設定入力フォームが立ち上がるので、各注釈の記載設定として、「離隔距離を記載」、「緩和計算式を記載」にチェックを入れます。その他、描画レイヤグループの設定、線種及び文字種の記載仕様、告示緩和適用(デフォルトではオンになっている)の選択を行います。
【9】「設定完了」ボタンを押すと、Jw_cadの画面に延焼線が出力されます。
参考:注釈の「緩和計算式の記載」にチェックを入れた場合は、中心線と外壁面がなす角度のうち最小となる位置に計算式が記載されます。