🏠 2019年の延焼ライン法改正と「JG_延焼線緩和」
今回は「JG_延焼線緩和」に関連して、2019年の延焼ラインに関する法改正について整理します。
この法改正により、建物が隣地境界線や隣棟間の中心線に正対していない場合、その傾きの度合いに応じて延焼範囲を計算で設定できるようになりました。
また、これまで高さ方向には無制限に延焼範囲がかかっていましたが、改正後は、計算によって求めた高さまでに抑えられるようになりました。
つまり、火災時の熱的な影響を考慮しながら、延焼線をより合理的に算出できるようになったということです。
1. 緩和効果の特徴
実際に緩和計算を使ってシミュレーションしてみると、次のような傾向があります。
- 水平方向の緩和効果は、比較的小さい
- 高さ方向の緩和効果は、建物が高層になるほど大きい
告示の算定式を見ると、高さ方向の延焼範囲は、低い側の建物高さに対して、上方に概ね10m程度(下図の*1)で延焼範囲がカットされます
そのため、高低差が大きければ大きいほど緩和効果が得られます。
*1:固定値の5m(低い建物が5m以上の場合は10m)に離隔距離によって変動する5m前後を足した値。
緩和前と緩和後の延焼範囲のイメージ
2. 告示1号と告示2号
今回の緩和は、大きく次の2つに分かれます。
告示1号
敷地内にある建築物相互の外壁間に生じる延焼ラインの緩和
告示2号
隣地境界線や道路中心線に生じる延焼ラインの緩和
JG_延焼線緩和 告示1号(建築物相互間の延焼線)緩和 実行画面
JG_延焼線緩和 告示2号(隣地境界線等に生じる延焼線)緩和 実行画面
3. 水平方向の緩和算定式
水平方向の緩和算定式は、告示1号・告示2号ともに同じです。
1階の場合
d = max{2.5,3 ×(1 − 0.000068 × Θ²)} ・・・式1
2階以上の場合
d = max{4,5 ×(1 − 0.000068 × Θ²)} ・・・式2
ここで、max(値1,値2,・・・) は、括弧内の値のうち最も大きい値を採用するという意味です。
つまり、
を下限値とし、それを下回らないようになっています。
4. 告示1号における緩和の考え方
告示1号では、二つの建物がいずれも準耐火構造以上であれば、両方の建物に緩和を適用できます。
告示の解説書などでは、片方の建物を緩和対象の建物、もう片方を「他の建築物」として説明していることが多いです。
ただし、実際には、両方の建物について同時に一つの算定図で表現することも可能です。
しかし、建物形状が複雑になると算定用の下線が増え、図面が煩雑になります。
そのため、確認申請では、建物ごとに分けて算定したほうが見やすく、説明もしやすくなります。
JG_延焼線緩和 建物形状が複雑な場合(片側のみ算定した場合)(A図)
5. 建物形状が複雑な場合の算定図
A図は、片側の建物形状に凹凸がある場合の例です。
外壁にわずかな凹凸があるだけでも、外壁間中心線の折れ点は大きく増えます。
それに伴い、中心線を構成する線分の数も増加します。
この程度の建物形状であっても、算定図は見づらくなりやすいため、建物ごとに分けて作成したほうが、分かりやすい図面になります。
なお、「JG_延焼線緩和」では、緩和算定は片側ずつ行います。
ただし、延焼線は両方の建物について描画されます。(A図では「他の建築物」側の延焼線を消去して表示しています。)
また、高さ方向の緩和算定は、高い側の建物にのみ適用されます
JG_延焼線緩和 水平方向緩和計算 最小の角度を選択(B図)
6. 算定図に表示される角度Θについて
「JG_延焼線緩和」の算定図について、少し補足します。
隣地境界線等、または外壁間中心線と建物外壁ラインが交わる点は、複数発生する場合があります。
このとき、式1・式2で使用する角度 Θ は、隣地境界線等と建物外壁ラインがなす角度のうち、最小の角度を採用します。
例えばB図の場合、角度が図のように複数(27.5°と62.5°)発生しています。
B図の場合は27.5°(27.5°<62.5°)が最小となり、この最小角度の近傍に計算式を2段(上が1階、下が2階以上)で記載しています。もうひとつの中心線の場合も同様に最小となる17.5°(17.5°<72.5°)の近傍に2段で算定式を記載しています。
7. 高さ方向の緩和算定式
高さ方向の緩和を行う場合、算定式は次のようになります。
h(B) が5m未満の場合
h = h(B) + 5 + 5√{1 −(S / dfloor)²} ・・・式3
h(B) が5m以上の場合
h = h(B) + 10 + 5√{1 −(S / dfloor)²} ・・・式4
これらの式は、水平方向の算定式の下に表示されます。
ただし、表示されるのは高さ方向の緩和を行う建物のみです。
8. 高さ方向の算定式で使う値
高さ方向の算定式で使用する主な値は、次のとおりです。
h(B):
低い側の建物高さを指します。
S:
各中心線から建物までの最小距離です。
B図の場合は、例えば次の値が該当します。
S3、S2 = 4.371
dfloor:
式2で求めた、2階以上の延焼距離です。
B図の場合は、例えば次の値が該当します。
d3 = 4.743 d2 = 4.896
9. 水平方向の緩和効果が小さい理由
冒頭で、高さ方向の緩和に比べて、水平方向の緩和効果は小さいと述べました。
ここでは、その理由を少し掘り下げます。
1階の算定式は次のとおりです。
d = max{2.5,3 ×(1 − 0.000068 × Θ²)}
この式では、下限値である 2.5 と、計算値である
3 ×(1 − 0.000068 × Θ²)
のうち、大きいほうを採用します。
では、角度 Θ がいくつになれば、下限値の 2.5 が採用されるのでしょうか。
次の式を Θ について解きます。
3 ×(1 − 0.000068 × Θ²)= 2.5
計算すると、
Θ = 約49.5°
となります。
しかし、ここで問題になるのは、実際にこのような角度が発生するかどうかです。
水平方向の算定式に使用する角度Θの推移(C図)
10. 矩形建物では45°を超えない
角度 Θ は、隣地境界線等と建物外壁ラインがなす角度のうち、最小の角度です。
C図で示すように、一般的な矩形建物を計画している限り、この角度が45°を超えることは原理的にありません。
45°を式1に代入すると、結果は次のようになります。
d = 約2.589m
一般的な矩形建物の場合、1階の緩和値は下限値の2.5mまでは下がらず、2.6m程度で頭打ちになります。
11. 高さ方向の緩和で注意すべき点
高さ方向の緩和では、もう一つ注意点があります。
B図を見ると、高さ方向の緩和計算式として、次の2種類が表示されています。
h2 = 10.441m
h3 = 10.753m
この入力値が異なるため、結果の高さも異なります。
ここで分かることは、高さ方向の緩和値は、中心線を構成する線分の数だけ存在するという点です。
つまり、外壁間中心線が複数の折れ線で構成されている場合、それぞれの線分ごとに高さ方向の緩和値が発生します。
中心線によって異なる延焼範囲とその合成(D図)
12. 立面図に投影する場合の考え方
高さ方向の緩和効果を立体的に表現すると、D図のようになります。
延焼範囲の上端位置に着目すると、線分ごとに高さが異なり、範囲が少しずつずれていることが分かります。
実務では、これを立面図に投影して表現することになると考えられます。
しかし、A図のように中心線の線分数が多くなると、すべてを正確に反映する作業は非常に煩雑になります。
そのような場合は、複数ある h の値のうち、最大となる値で安全側に統一するという方法もあるかと思います。
13. まとめ
2019年の法改正により、延焼ラインは建物の傾きや高さ関係を考慮して、より合理的に設定できるようになりました。
特に高さ方向の緩和は、高層建物ほど効果が大きくなります。
一方で、水平方向の緩和効果は、高さ方向に比べると限定的です。
また、外壁間中心線が複雑になると、高さ方向の緩和値も線分ごとに複数発生するため、そのつど立面図等で延焼範囲を図示する必要があります。
「JG_延焼線緩和」では、これらの算定式や延焼線を自動作成することで、法改正に対応した検討作業を効率化できます。