隣棟間の中心線をマニアックに解析
「JG_延焼線緩和」に関連して、隣棟間延焼線の基準となる建物間中心線の描画をプログラムで解析しようと思った経緯と、プログラムで解析することの限界について掘り下げたいと思います。
外壁間中心線の基本的な作図方法は、「防火避難安全規定の解説」に示されています。二棟の外壁面が正対している場合はそれぞれの外壁から等距離にある平行線を引き、正対していない場合は向き合う外壁がつくる角度の二等分線をつくり、さらにそれらが交わるところで連結し、一連の折れ線にすると完成。ということになっています。
面倒な作業ですが地道にやっていけばできそうです。しかしながら、建物の形状が複雑になり二等分線が錯綜しだすと、どの線をどの位置で連結すべきか途方に暮れることになります。（あれこれ思考錯誤していくうちに何とか形にはなりますが・・・）
さて、この中心線作成をプログラム化しようと思ったきっかけは、一見規則性が無いように見えるものの結果的に作図できるからにはそこに何らかのメカニズムがあるのではないかと考えたからです。
基本的なルールは単純で、建物どうしが向き合っている全ての面で二等分線（このツールでは補助線といっています）を作成し、建物間の中央に位置する補助線同士を見つけて繋いでいくというものです。これは「総当たり」といって解析する対象が膨大になるきらいはありますが、取りこぼしがなく、作成後に検証しやすいというメリットがあります。
A図は、候補の補助線のなかから特定した線（中心線）を赤太線で表示したものです。複数の補助線のなかから建物間の中央付近を通る部分を見つけ交点で繋いでいます。
様々にシミュレーションした結果、最後まで途切れることなく連続する中心線を最低一本は見つけ出すことができます。ただ一本のみかというとそうではなく、建物どうしが離れている（延焼線の検討にはあまり影響がない）ところでは、中央の中心線とは連続しない別の中心線が現れる場合があります（Ｂ図）。
A図のように外壁面に凹凸がない場合は中心線は一組のみですが、B図のように外壁面に凹凸があると、互いに平行な補助線（図のピンク色の点線）が複数現れ、中心線が二組発生する場合があります。
B図をみると、最も外側で発生した中心線が内側（外壁間中心線２）で建物の中央から明らかに逸脱し途中で途切れていることが分かります。
しかし多くの場合、このように周縁部で発生した中心線の全てが最後まで連続することはありません。その点では延焼線作成に有効な中心線は一本のみであると言えそうです。
建物の形態が複雑になった場合はどうでしょうか。
C図においては外壁の面が増え補助線の数も増えてきていますが、建物間の中央を通り両端にかけて連続する中心線が一意に定まっています。次のD図においても、補助線が網目のように出現し複雑な状況となっていますが、この場合でも中心線が一意に定まっています。
E図は、あえて壁面を複雑にしてプログラムを実行した例です。補助線の総数は、二棟間で向き合う外壁面の数の掛け算（例：向き合う外壁面が３面ずつの場合３×３＝９本）になるので、外壁面が多くなると指数的に補助線が増えていきますが、この例でも連続する中心線が作成できています。
さて一方でF図をみてください。
E図ほど建物形態が複雑ではないにも関わらず途中で途切れています。
JG_延焼線緩和 中心線作成シミュレーション１（E図）
理由は、外壁面に凹部があるとルートが円環状になりやすい上に、同一点に繰り返し戻ってきて無限ループのような状態になったためで、比較的整形な凹部がある場合に偶発的に発生します。総当たりの順番を逆にすることで解消する場合もありますが、それだけでは解けない場合があります。
単一のプログラムで袋小路に陥った場合には、パラメーターを用いて動的なプログラムにすることが有効な場合があります。
（「JG_延焼線緩和」では、「形状が複雑な場合に使用するパラメーター」を設けて、補助線が複雑に絡み合う状況に対応できるようにしています。）
改善が見られたパラメーターは以下の二つです。
①中心線（補助線）の交点回りを詳細に解析する
②互いに連続しない中心線（の候補）を複数描画する
＜パラメーター①の概要＞
補助線同士の交点を繋げていく際に交点から一定の範囲にある補助線については一度選択したものは次に選択できないようにしていますが、パラメーター①は、その際の範囲を狭めるパラメーターです。
H図は、パラメーター①「中心線の交点回りを詳細に解析する」を実行した例です。オフの状態のG図と比較すると青丸部分の中心線のルートが異なっていて、H図の中心線がより建物間の中央に近いことが分かります。
（ただし通常はオフにして使用します。このパラメーターの閾値が小さいとF図のように途中で途切れるリスクが増えるためです。）
＜パラメーター②の概要＞
プログラムでは建物間の中央の位置を二棟間の最短線分の中点と定義していますが、この点を補助線が通ることは稀で、最も近い補助線を採用しています。パラメーター②は、最も近い補助線に加えて次に近い補助線も採用するパラメーターです。（結果的に中心線は２本描画されます。）
J図はパラメーター②をオフで実行した例です。青丸部分を拡大したK図をみると、点線のラインよりも太い実線ラインが僅かに中点に近いため特定されています。パラメーター②をオンにすると、この点線も候補に含めます。
L図は、パラメーター②「互いに連続しない中心線を複数描画する」をオンで実行した例です。最短線分の中点に近い中心線に加えて、次に近い中心線が代替案として描画されています。この二本のうち一本は完全に誤っていますが、一本は正確に描画できています。
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